ブリューゲル「バベルの塔」展@東京都美術館
今年の展覧会の話題の一つである「バベルの塔」を観てきました。
金曜日の午前中だというのに、会場である東京都美術館に向かう人がぞくぞく。この調子だと会期ぎりぎりの週末はきっとエライことになりそう。こういう話題の展示は早めに見ておきたいですね。
16世紀のネーデルラント美術
入り口すぐは、16世紀のネーデルラントの彫刻。キリスト教がモチーフの木彫りの作品が7点ほど。偶然そういう作品ばかりが集まったのか、どれも正面で見ることを前提とされていて、背面は平たんになっている。もともとは教会の祭壇などに置かれていたものなのかしら。
その後の展示室は、15~16世紀の絵画。この時代ちょうどイタリアではかのミケランジェロやレオナルド華やかなりしころ。ネーデルラントは美術史上では「北方ルネサンス」などと名付けられています。
宗教画は、キリスト教に詳しくないと難しい分野ですね。けれど今回の展示では、聖人と呼ばれる人の説明が丁寧にキャプションされているので、わかりやすいです。
私は「枝葉の刺繍の画家」(これが作者名です)の作品で対として展示されていた《聖カタリナ》《聖バルバラ》が好きでした。少し冷たい感じの美しい面差しに、細かい服飾の描写。人気の作品みたいです。
のちに宗教画から風景画、肖像画へと画題が展開していく様子がわかります。
絵画は「気候風土」が如実に表れますね。イタリアルネサンスの明るい色調、血色の良い素肌と比べると光に恵まれない地域の色彩はコクのあるヤニのよう。それはそれで独特の雰囲気を醸し出しています。
奇想天外なボス
ヒエロニムス・ボス。はじめてボスの奇怪な小動物の作品を観たとき「鳥獣戯画」のようだなと思いました。何か影響を受けているのかしら?と思い日本とオランダの貿易の歴史を調べてみたことがあります。日蘭の貿易が盛んにおこなわれたのは1600年以降のこと。ボスが活躍する1500年前後とは時代がちがう。
日本では、古来から小動物を擬人化することはよくあったことだけれど、ボス以前のヨーロッパではあまり記憶にありません。
一体、ボスの身に何が起こってあんな絵を描いたんだろう。
奇怪でおどろおどろしい。だけれどちょっとユーモラスで憎めない絵。
ボスに触発されてさまざまなイマジネーションを膨らませていく後継の画家たちが出てくるのは、とてもよくわかりますね。
いよいよバベルの塔
展示室最後はいよいよバベルの塔に向かいます。
ブリューゲルの描いた「バベルの塔」は、2つあります。ウィーン美術史美術館蔵のもの(114×155)と今回来日のもの(60×75)。
想像以上に小さい感じですね。人垣の中に隠れてしまう感じ。
バベルの塔!圧倒!!というイメージではなかったですね。
確かに細かいし、面白い絵だけれど・・・。
私は、前の部屋にあったブリューゲルの細かくて珍妙な感じの版画の方が好きでした。
しかしこの部屋、展示としてはなかなか面白いです。
巨大パネルで「いかに細かいか」を大混雑が予想される展示室でも十分伝わるように工夫されているし、3DCG映像シアターで立体再現しているのも楽しい。
美術館サイドの努力が現れた力作だと思いました。
バベルの塔の高さは510m。
東京タワーよりは高いけれど、スカイツリー(634m)よりは低い。来場の女子高生がこのパネルを見て「バベル、ちっちゃ!」と言いながら通り過ぎたのには笑えました。