アドルフ・ヴェルフリ 二萬五千頁の王国 @東京ステーションギャラリー
アウトサイダー・アートとは
アウトサイダー・アート(アール・ブリュット)とは、精神疾患者、知的障碍者など正規の芸術教育を受けていない人たちの芸術を言います。
精神疾患を持っていても、ゴッホや草間彌生などは芸術家としての修行過程があるから含まれないのだと個人的には思っています。
今回のアドルフ・ヴェルフリ(1864-1930)は、精神病院入院中に絵画制作を覚え、25,000ページにも及ぶ作品を遺しました。アウトサイダー・アートの巨匠とも呼ばれているそうです。
精神疾患の患者さんには独特の感性があるのでしょうから、そこから紡ぎ出すものも刺激的なものが多いようです。
私は、犯罪学や心理学の方面にも興味がありますが、そもそも正常と異常の境界線ってなんだろうと感じています。
創り手がどんなバックボーンを持っていようが、作品として優れていたらそれで十分なわけで、「アウトサイダー・アート」というカテゴリーをつくる必要性は私にはよくわかりません。
アドルフ・ヴェルフリ
アルコール依存症で犯罪を繰り返す父。貧困の末一家離散。失恋などを契機に精神状態は悪化。幼女暴行の罪を繰り返し、精神病院に入院。そこで、鉛筆と紙を与えられ制作に没頭します。
毎週新しい2本の鉛筆と紙を支給されたそうですが、数日で鉛筆を使い切ってしまい、週半ばからはしょんぼりと過ごしていたそうです。
私は子供のころ、1年間ですら1本の鉛筆を使い切った記憶がありません。
鉛筆を使い切るほどの絵とはどんな絵なのでしょう。
アドルフ・ヴェルフリ 二萬五千頁の王国
どの作品も1辺が1m近い新聞用紙に、鉛筆でぎっしりと書き込まれています。うねる帯の中に細かい模様。帯の中には自画像らしき男の顔や鳥や動物らしきモチーフが閉じ込められています。
また、楽譜のようなものと文字もびっしり。
アドルフの中には、言葉と音楽と絵画は並列に進行していたのかもしれません。
はじめはフォークロアな雰囲気もあり、ユーモラスでもあり楽しんで観ていましたが、次第に「面倒くさく」なってきました。
執拗に繰り返される単純なモチーフと帯のようなものが私自身の神経に絡みついてくるような感覚を覚えました。
こういう作品は、少数をじっくりと時間をかけて観たほうが精神衛生上好ましいのかもしれません。
アドルフは冒険記を夢想し、理想の王国を頭の中で築いて、自らが王として君臨していたといいます。
まさに壮大なるイマジネーションの世界。
しかしそこに取り込まれまいと抵抗する私自身は、こちら側の岸にしがみついてもいたのです。
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