没後90年 萬鐵五郎展 @神奈川県立近代美術館葉山館
当時近代日本の絵画に無知だったころ、この絵を一目見て衝撃を受けました。
《裸体美人》(1912)
生命力の塊のような腋毛をもあらわにした半裸の女性。うねるようなタッチと赤と緑の補色の対比。ゴッホとマティスが手を取り合ったような作風です。日本にこれほどまでにフォービスムを吸収した画家がいたのかという驚きでした。それが萬鐵五郎との出会いでした。
その後萬のことを調べていたら、晩年は病気療養のため茅ヶ崎に住んでいたということを知りました。そのためわが近隣の茅ヶ崎市美術館、平塚市美術館、神奈川県立近代美術館にもいくつか所蔵品があります。
現在、神奈川県立近代美術館葉山館にて、「没後90年 萬鐵五郎展」が開催中ですが、先週末館長のギャラリートークがありましたので、それに合わせて行ってきました。
神奈川県立近代美術館の館長は水沢勉氏。近現代日本美術の著名な評論家で、先日は日曜美術館に出演されたばかり。館長のギャラリートークをお目当てに来館されたという方が多数おられました。
水沢館長、素晴らしいトークでした。お話しもお上手ですし、着眼点が鋭く、絵を分析するとはこういうことなのかととても勉強になりました。
《裸体美人》《もたれて立つ人》《宝珠を持つ人》の3作品にスポットを当てての説明でした。
《もたれて立つ人》(1917)
萬は、女性像と自画像を多く描いていますが、そのほとんどは最大の理解者であった「よ志夫人」と自分の「対」であったこと、当時日本の美術界ではヨーロッパからのいろいろな手法(キュビスム、未来派、ドイツ表現主義など)が同時に雑多に入ってきていて、画家たちはその新しい手法に飢えたようにどんどんと吸収していった時期であったこと、萬自身いろいろな手法に挑みながら、常に自らの出発点であった芸大時代の基本に戻りつつ、自分がどれだけ表現の呪縛から自由になれたかの確認をしていったであろうことを説明してくださいました。
トークが終わっても、そのオーラに圧倒され、私もふらふらと館長の問わず語りの館内ウォークについて回ったひとりでした。
展示替えありの400点の出展数。
ものすごく見ごたえのあるものでした。
《風船を持つ女》(1913)
こういう感じのおばさん、どこにでも居そうです。ちょっと怖いけれどユーモラス。会うとお小言を言われそうだけれどなんだか気になる人。《風船を持つ女》とあるけれど、風船、持ってないし。(笑)
変な絵だけれど惹きつけられます。萬の絵はそういう魅力があります。
《水着姿》(1927)
左奥は烏帽子岩ですね。傘は萬の好きな小道具。波をものともせずに座る少女のたくましさ。萬の描く女性はみな力強さがあります。
《雲のある自画像》(1912)
いつもどこか弱々しく陰鬱な自画像と対照的です。
今回は水沢館長のオーラにやられっぱなしで、絵と対峙する心のゆとりがあまりありませんでした。
会期中にぜひもう一度訪れ、萬ワールドに浸りたいと思います。