「桑久保徹 A Calendar for Painters without Time Sense.12/12」 @茅ヶ崎市美術館
茅ヶ崎市美術館で2月7日まで開催されている「桑久保徹 A Calendar for Painters without Time Sense.12/12」 を観に行った。
現代に生きる桑久保徹が12人の巨匠のアトリエ(スタジオ)をイメージして描いた12枚の作品を「カレンダーシリーズ」として展示した本展。
出品リストは下記の通り
1月:パブロ・ピカソのスタジオ
2月:エドヴァルド・ムンクのスタジオ
3月:ヨハネス・フェルメールのスタジオ
4月:ジェイムズ・アンソールのスタジオ
5月:ポール・セザンヌのスタジオ
6月:ピエール・ボナールのスタジオ
7月:ジョルジュ・スーラのスタジオ
8月:フィンセント・ヴィレム・ファン・ゴッホのスタジオ
9月:デイヴィッド・ホックニーのスタジオ
10月:ルネ・マグリットのスタジオ
11月:アメデオ・クレメンテ・モディリアーニのスタジオ
12月:アンリ・マティスのスタジオ
この12人のチョイスはなかなか趣味がいい。
すべて同じサイズのカンヴァスで181.8×227.3cmという大迫力である。
その大きな画面に海の風景が描かれており、その風景の中にそれぞれの作家の作品と彼らのアトリエ周辺にあったであろう持ち物が無数に描き込まれている。
それを12枚の「カレンダー」という形態でまとめたのは、桑久保にとって部屋に飾る「名画カレンダー」の存在が身近な絵画鑑賞体験であったからだという。
コロナ禍での開催の為か、平日に来館した為か、美術館にいた鑑賞者は10人足らず。
展示室は私一人になる瞬間が何度もあり、大画面が並ぶ空間を自由に立ちつくし、また行きつ戻りつできる時間はなんとも贅沢だ。
なにしろ細かい描き込みに圧倒される。
中には数センチほどの中に名画が見事に模写されているその画力は素晴らしいものだ。
美術ファンなら自分の好きな作品を画面の中から探し出すのは、宝探しの様にワクワクするだろう。
例えばピカソの《アビニヨンの娘たち》やムンクの《叫び》という代表作が見つけられなかったのだけれど、なぜ桑久保がそれぞれの作品を描き、また描かなかったのかと考えるのも楽しい。
海の風景もそれぞれの巨匠たちの内面を思わせるようだ。
スペインからフランスに渡ったピカソの永遠に越えられないような寒々とした海。
対岸の華やかな夜景に憧れながら、暗闇に孤独なスポットライトが当たったようなゴッホの浜辺。
砂漠の様に乾いた暑い砂の向こうに遥かなオアシスを渇望するかのようなモディリアーニの海。
閉じ込められた部屋の中から見える桃色に輝く夕焼けに輝く美しいマティスの波間。
まるで巨匠たちの心の中のアトリエを訪問しているようだ。
この展示室にいて、桑久保のフィルタを通した巨匠たちといつまでもいつまでも対話していたいと思わせる展示であった。
この図録もマットな紙質の印刷と沢山遼の対談(個人的に沢山氏のファンなので、余計)が掲載された洒落たものだ。
ただ、印刷された作品では、作品本来の持つ絵具の盛り上がりの迫力や色気のある艶やかさが失われているのは残念。
ぜひ、美術館で堪能してほしいところ。
桑久保の個展が開かれるのは公営の美術館としては初の試みという。
天晴、地元の美術館。